PCRとは?
原理・仕組み・マテメソをわかりやすく解説
PCRとは、DNAの特定の部分を大量に増やす技術です。温度を変えながら、変性・アニーリング・伸長反応をくり返します。
PCRとは、DNAの特定の部分を増やす方法
PCRは、正式にはポリメラーゼ連鎖反応といいます。
英語では Polymerase Chain Reaction といい、その頭文字をとってPCRと呼ばれます。
PCRを行うと、調べたいDNAの部分だけを何度もコピーして、実験で扱いやすい量まで増やすことができます。
ここで大事なのは、PCRはDNA全体を増やす技術ではないということです。
PCRでは、増やしたい場所を決めて、その部分だけを増やします。
PCRで増やす場所は、プライマーが決める
PCRで増やしたい部分は、はじめから明確に決まっています。
つまり、スタートとゴールがある。
PCRを行うときは、このスタートとゴールに合うように、2種類のプライマーを用意します。
プライマーとは、DNAポリメラーゼがDNAを合成し始めるための短いDNAです。
DNAポリメラーゼは、何もない場所から自由にDNAを作り始めることはできません。
まずプライマーがDNAに結合し、そのプライマーを出発点として、新しいDNA鎖が伸びていきます。
だからPCRでは、プライマーがとても重要です。
プライマーが結合した場所からDNAが合成されるため、どの部分を増やすかはプライマーによって決まる、と考えると理解しやすいです。
PCRを行う際の材料
PCRには、主に次のものが必要です。
PCRは、これらの材料を混ぜて、温度を変えながら進めます。
PCRの3ステップと温度
PCRでは、温度を変えることで反応を進めます。
ここで使われる装置が、サーマルサイクラーです。
サーマルサイクラーは、設定した温度にしたがって、反応液を高温・低温・中温へと自動で変化させる装置です。

基本は、変性、アニーリング、伸長反応の3ステップです。
温度の例としては、変性は94〜98℃付近、アニーリングは50〜60℃付近、伸長反応は68〜72℃付近で行われることが多いです。
上の写真の例では、98℃、55℃、72℃という設定が見えています。
ただし、実験やプライマー、使う酵素、調べる対象によって温度は変わります。
「この反応は必ず○℃でやる」と丸暗記するのではなく、それぞれの温度で何が起きているのかを理解することが大事です。
高温にするのは、DNAの2本鎖をほどくため。
温度を下げるのは、プライマーを目的の場所に結合させるため。
中くらいの温度にするのは、DNAポリメラーゼがDNAを伸ばしやすくするため。
このように、温度は数字そのものよりも「その温度で何を起こすのか」が重要です。
変性
まず、高温にして二本鎖DNAを一本鎖にします。
DNAはふつう、2本の鎖が向かい合った二本鎖の状態です。
PCRでは、この2本をいったん離して1本にすることで、プライマーが結合できるようにします。
このステップを変性といいます。
アニーリング
次に、温度を下げて、プライマーを一本鎖DNAに結合させます。
プライマーは、相補的な塩基配列をもつ部分に結合します。
AとT、GとCが対応するという、DNAの相補性を利用しているわけです。
このステップをアニーリングといいます。
伸長反応
最後に、DNAポリメラーゼがプライマーを出発点として、新しいDNA鎖を伸ばします。
ヌクレオチドが順番につながり、もとのDNAに対応する新しいDNA鎖が作られます。
このステップを伸長反応といいます。
PCRでは、DNAがくり返し増えていく
PCRでは、変性、アニーリング、伸長反応の3ステップを何度もくり返します。
1回のサイクルで、目的のDNA部分がコピーされます。
そして、コピーされたDNAも次のサイクルでは鋳型になります。
そのため、理論上は目的のDNA量が次のように増えていきます。
写真のサーマルサイクラーにも、Cycle 30/35 と表示されています。
これは、設定された温度変化を35回くり返すうち、30回目のサイクルまで進んでいる、という意味です。
筆者が行う実験でも、このステップを30回前後くり返します。
ここが、PCRでDNAが「指数関数的に増える」といわれる理由です。
PCRは何に使われるのか
PCRは、DNAを調べるためのさまざまな場面で使われます。
身近なところでは、新型コロナウイルスの検査で「PCR検査」という言葉を聞いた人も多いと思います。
ここで大事なのは、PCR検査はウイルスそのものを増やしているわけではないということです。
検体の中にあるウイルス由来の遺伝情報を、検出しやすい形・量にして確認する。
これが、PCR検査のイメージです。
細かい手順は対象によって変わりますが、基本にあるのは目的の遺伝情報を増やして確認するという考え方です。
高校生物で出てくるPCRは、教科書の中だけの話ではありません。
実際の研究でも、ウイルスや生物の遺伝子を調べるときにPCRが使われます。
筆者自身も、ウイルスの変異を調べる研究の中でPCRを扱っています。
調べたい遺伝情報を増やして確認する、という考え方は、実際の研究でもかなり重要です。
つまりPCRは、高校生物で学ぶDNAの知識がそのまま実験につながっている単元です。
PCRの入試問題は、正直、医学部入試レベルでも丸暗記で何とかなってしまうことがあります。
だから、「まずは覚えちゃおう」という勢いが強く、理解が後回しにされがちです。
ただ、PCRは実際の研究でも使われる技術です。
原理がしっかり分かっていると、覚えるのが楽になります。
それに、DNA、酵素、相補性、遺伝子解析の話がつながって、理解がかなり深くなります。
なので、順序としては、理解する → 納得する → 覚える、になるといいと思います。
PCRは、ただの暗記事項ではありません。
高校生物で学ぶDNAの知識が、そのまま実験につながっている単元です。
高校生物は、用語を覚えるだけでは点数につながりません。
PCRも、変性、アニーリング、伸長反応という言葉を覚えるだけなら、それほど難しくありません。
ただ、なぜ高温にするのか。なぜ温度を下げるのか。なぜプライマーが必要なのか。なぜDNAポリメラーゼが働くのか。
そこまで理解できると、生物はかなり面白くなります。
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