翻訳とは?コドン・tRNA・リボソームの仕組みを解説
なぜ3つの塩基で1つのアミノ酸なのか。コドン表を覚えなくていい理由。この2つが分かれば、翻訳という単元はほとんど整理できます。
前回の記事では、転写でできた前駆体mRNAが、イントロンを取り除かれ、キャップやポリA尾部を付けられて、成熟mRNAになるところまでを見てきました。
設計図の原本をコピーして、現場で使える図面に仕上げるところまでは終わりました。あとは、その図面を見ながら実際に建てるだけです。この最後の工程が翻訳です。
スプライシングとは?イントロン・エキソン・成熟mRNAを解説 →
SECTION 01翻訳とは、mRNAの情報からタンパク質を作ること
セントラルドグマの最後の段階、RNA → タンパク質にあたるのが翻訳です。
翻訳とは、mRNAの塩基配列を読み取って、その順番どおりにアミノ酸をつないでいくことです。
ところで、なぜ「翻訳」という言葉が使われているのでしょうか。
転写のときは、DNAの鋳型鎖をもとに、相補的なRNAが作られました。DNAもRNAも塩基でできた核酸なので、同じ文字体系の中で写し替えているだけです。だから「写す」で済みました。
でも今回は違います。mRNAはA・U・G・Cという4種類の塩基で書かれていて、タンパク質は20種類のアミノ酸で書かれています。文字の種類そのものが違う、まったく別の言語です。
英語を日本語に訳すのと同じで、別の言語に置き換える作業だから翻訳。そう考えると、用語がすんなり入ってくると思います。
たとえばmRNAのAUGというコドンは、メチオニンというアミノ酸を指定します(アミノ酸を1文字で表記するときは、メチオニンをMと書きます)。AUGという3文字が、メチオニンという1個の分子に対応する。文字を文字に置き換えているのではなく、文字から物へ読み替えている、というわけです。
SECTION 02なぜ3つの塩基で1つのアミノ酸なのか
ここが今回の記事で一番大事なところです。記述問題でもよく問われます。
まず、材料を確認しましょう。mRNAの塩基は4種類(A・U・G・C)。タンパク質を作るアミノ酸は20種類。
つまり、4種類の文字を組み合わせて、20種類のアミノ酸を指定しなければなりません。
1つの塩基で1つのアミノ酸を指定するとしたら、4つしか作れません。20には全然足りない。
では、2つの塩基を組み合わせたらどうでしょう。4×4=16。まだ20に届きません。
3つならどうか。4×4×4=64。これなら20種類を指定してもお釣りがきます。
塩基は4種類、アミノ酸は20種類。2塩基では4²=16通りで足りず、3塩基なら4³=64通りで足りる。だから3つの塩基で1つのアミノ酸を指定しています。
このmRNAの3つ組の塩基をコドンといいます。
ただし、この計算で分かるのは「3塩基あれば足りる」という最小の長さまでです。実際の遺伝暗号が本当に3塩基ずつ区切って読まれていることは、後の実験で確かめられました。その話は記事の最後の+αで触れます。
記述問題では「なぜ3つの塩基が1つのアミノ酸を指定するのか説明せよ」という形でよく出ます。答えるときは、塩基が4種類・アミノ酸が20種類・2塩基では16通りで足りない・3塩基なら64通りで足りる、この4つを必ず入れてください。数字を出さずに「3つでないと足りないから」とだけ書くと、説明として不十分です。
SECTION 03コドン表は覚えなくていい
64通りのコドンが、それぞれどのアミノ酸に対応しているか。これをまとめたものが遺伝暗号表、いわゆるコドン表です。
先に言っておきます。この表を覚える必要はまったくありません。入試では表が示されることが多いので、丸暗記するより読み方を理解しておくほうが実用的です。
| 1文字目 | 2文字目:U | C | A | G | 3文字目 |
|---|---|---|---|---|---|
| U | UUU フェニルアラニン | UCU セリン | UAU チロシン | UGU システイン | U |
| UUC フェニルアラニン | UCC セリン | UAC チロシン | UGC システイン | C | |
| UUA ロイシン | UCA セリン | UAA 終止 終止コドン | UGA 終止 終止コドン | A | |
| UUG ロイシン | UCG セリン | UAG 終止 終止コドン | UGG トリプトファン | G | |
| C | CUU ロイシン | CCU プロリン | CAU ヒスチジン | CGU アルギニン | U |
| CUC ロイシン | CCC プロリン | CAC ヒスチジン | CGC アルギニン | C | |
| CUA ロイシン | CCA プロリン | CAA グルタミン | CGA アルギニン | A | |
| CUG ロイシン | CCG プロリン | CAG グルタミン | CGG アルギニン | G | |
| A | AUU イソロイシン | ACU トレオニン | AAU アスパラギン | AGU セリン | U |
| AUC イソロイシン | ACC トレオニン | AAC アスパラギン | AGC セリン | C | |
| AUA イソロイシン | ACA トレオニン | AAA リシン | AGA アルギニン | A | |
| AUG メチオニン 開始コドン | ACG トレオニン | AAG リシン | AGG アルギニン | G | |
| G | GUU バリン | GCU アラニン | GAU アスパラギン酸 | GGU グリシン | U |
| GUC バリン | GCC アラニン | GAC アスパラギン酸 | GGC グリシン | C | |
| GUA バリン | GCA アラニン | GAA グルタミン酸 | GGA グリシン | A | |
| GUG バリン | GCG アラニン | GAG グルタミン酸 | GGG グリシン | G |
※スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
コドンは、5′側から1番目・2番目・3番目の塩基の順に当てはめて読みます。上の表なら、1文字目で行、2文字目で列、3文字目で行の中の位置を決める。UUUなら、Uの行のUの列、その中のUの位置をたどって、フェニルアラニンにたどり着きます。
表の並べ方は資料によって違うことがありますが、5′側から順に当てはめるという原則は共通です。
ただし、覚えておいて損がないものが2つあります。開始コドンと終止コドンです。
高校生物で扱う標準的な遺伝暗号表では、開始コドンはAUGの1つ。終止コドンはUAA・UAG・UGAの3つです。
AUGはメチオニンというアミノ酸のコドンでもあるので、翻訳はメチオニンから始まります(できあがった後に切り取られることもあります)。
終止コドンのほうは、3つとも覚えるのが面倒に感じるかもしれません。終止コドンはね、北斗の拳の断末魔なんですよ。叫んで終わる、みたいな。UGA「うぐぁぁ!」UAA「うぁぁぁ!」UAG「うぁぐっ!」。ね? 終わる感じするでしょ?
SECTION 04tRNAとアンチコドン
ここで、1つ疑問が出てきます。
mRNAに並んでいるのは塩基です。一方、つながっていくのはアミノ酸です。塩基とアミノ酸は、化学的にまったく別のものです。塩基が直接アミノ酸を引き寄せる、なんてことはできません。
では、どうやって「このコドンにはこのアミノ酸」という対応を実現しているのでしょうか。
その仲介役がtRNA(転移RNA)です。
tRNAは、3′末端側にアミノ酸が結合する場所を持ち、別の部分にアンチコドンという3つの塩基を持っています。
ではそのtRNAに、どうやって「正しい」アミノ酸がくっつくのでしょうか。ここを担当しているのがアミノアシルtRNA合成酵素という酵素です。この酵素が、特定のアミノ酸と、それに対応するtRNAを選んで結びつけます。
アミノ酸を積んだtRNAは、アンチコドンがmRNAのコドンと相補的に塩基対を作ることで、翻訳の場に呼び込まれます。コドンが5′-AUG-3′なら、3′-UAC-5′というアンチコドンを持つtRNAが対を作ります。そしてそのtRNAは、メチオニンを運んできます。
つまり、コドン表の対応関係は、細胞の中に表として書かれているわけではありません。アミノアシルtRNA合成酵素がどのアミノ酸をどのtRNAに積むかと、アンチコドンがどのコドンと対を作るか。この2つの組み合わせとして実現されています。遺伝暗号の実体は、分子のほうにあるわけです。
SECTION 05リボソームは何をしているのか
翻訳の作業場がリボソームです。
リボソームはmRNAをはさみ込み、コドンを1つずつ読み進めていきます。そこにアンチコドンの合うtRNAがやってきて、運んできたアミノ酸を、すでにつながっているアミノ酸の鎖の先に連結します。
地味に聞こえるかもしれませんが、この「読む位置を1コドンずつ、ずれることなく進める」というのがリボソームの決定的な仕事です。
もしmRNAに1塩基の挿入や欠失が起こると、そこから先のコドンの区切りが全部ずれます。UUU・GGA と読むはずだったものが、UUG・GA… と読まれてしまう。結果として、まったく違うアミノ酸配列のタンパク質ができあがります。
逆に、1塩基が別の塩基に置き換わる置換では、区切りの位置そのものは動きません。読み枠がずれるのは、基本的に挿入と欠失です。
この「区切りがずれる」現象は、フレームシフトとして変異の単元でも登場します。
遺伝子の変異とは?SNP・挿入・欠失・フレームシフトを解説 →
ちなみに、リボソームはタンパク質だけでできているわけではありません。rRNA(リボソームRNA)とタンパク質が組み合わさった複合体です。
しかも、アミノ酸同士をつなぐペプチド結合を作る中心的な反応を担っているのは、タンパク質ではなくrRNAのほうです。リボソームは、アミノ酸を並べる足場であると同時に、RNAが触媒としてはたらいている場所でもあります。
前回、スプライソソームでもRNAが切る位置を見分けているという話をしました。翻訳でも、反応の中心にRNAがいる。RNAは情報を運ぶだけの分子ではない、というわけです。
SECTION 06翻訳は開始・伸長・終結の順に進む
転写のときと同じように、翻訳も3段階で整理できます。
- 開始:リボソームがmRNAに結合し、開始コドンAUGを見つける。メチオニンを運ぶtRNAが結合する
- 伸長:コドンを1つずつ読み進め、アンチコドンの合うtRNAが運んできたアミノ酸を次々につないでいく
- 終結:終止コドン(UAA・UAG・UGA)に到達すると、翻訳が終わる
ここで面白いのが、終結の仕組みです。
終止コドンには、対応するtRNAが存在しません。
終止コドンを読むtRNAは存在しません。代わりに解放因子というタンパク質が入り込み、できあがったポリペプチド鎖をtRNAから切り離します。
つまり終結は、2つのことが重なって起こります。対応するtRNAが存在しないこと。そして解放因子が終結の反応を進めること。tRNAが来ないから自然に止まる、という受け身の話ではなく、終わらせるための仕組みがちゃんと用意されています。
SECTION 07遺伝暗号の縮重と、変異とのつながり
もう一度、数を確認してみましょう。
コドンは全部で64通り。そのうち3つは終止コドンなので、アミノ酸を指定しているのは61通りです。
ところがアミノ酸は20種類しかありません。61と20。まったく数が合いません。
つまり、1つのアミノ酸に対して複数のコドンが対応しているということです。これを遺伝暗号の縮重といいます。
実際、フェニルアラニンにはUUUとUUCの2つ、ロイシンにいたっては6つものコドンが対応しています。
そして、この縮重には大きな意味があります。
塩基が1つ変わっても、指定されるアミノ酸が変わらないことがあるからです。DNAの塩基配列が変化しているのに、アミノ酸配列は変わらない。変異の単元で出てくる同義置換は、この縮重があるから起こります。
SECTION 08原核生物と真核生物では何が違うのか
真核生物では、転写が核の中、翻訳は核の外の細胞質で行われます。成熟mRNAが核から運び出されて、はじめて翻訳が始まります。
一方、原核生物には核膜がありません。だから、まだ転写されている途中のmRNAにリボソームが結合して、翻訳を同時に始めてしまうことができます。
前回のスプライシングの記事で扱ったのと同じ理屈です。核膜があるかどうかが、転写と翻訳を場所と時間で分けるかどうかを決めています。
+α)遺伝暗号はどうやって解読されたのか
3つの塩基が1つのアミノ酸を指定する。ここまでは、4種類と20種類という数字から理屈で説明できます。
ただ、計算で言えるのはそこまでです。実際に3塩基ずつ区切って読まれているのか。そして、どのコドンがどのアミノ酸なのか。こればかりは実験するしかありません。
まず「3塩基ずつ読んでいる」ことを示したのが、1961年のCrickたちの研究です。彼らはファージの遺伝子に塩基の挿入や欠失を起こし、1つ加えると機能が壊れ、2つでも壊れ、3つ加えると機能が戻ることを見つけました。3つで元に戻るということは、3つで1区切りだということです。読み枠という考え方が、ここで実験的に裏づけられました。
最初の1つが解けたのは1961年です。
Marshall NirenbergとJ. Heinrich Matthaeiは、大腸菌をすりつぶして、細胞がなくてもタンパク質を合成できる系(無細胞系)を用意しました。そこに、人工的に作ったRNAを加えます。
彼らが加えたのは、ウラシルだけがひたすら並んだRNA、いわゆるポリUでした。この中に存在するコドンは、UUUしかありません。
すると、できてきたのはフェニルアラニンだけがつながったタンパク質でした。
つまり、UUUはフェニルアラニンを指定するコドンである。64通りのうちの最初の1つが、こうして解けました。
この手法が確立すると、遺伝暗号表は数年のうちに埋まっていきます。Nirenbergは、酵母のアラニンtRNAの塩基配列を世界で初めて完全に決定したRobert Holley、配列の分かった人工RNAを合成して解読を進めたHar Gobind Khoranaとともに、1968年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
覚える必要のない表だと書きましたが、その表は、こうして1つずつ実験で埋められたものです。それを知ってから眺めると、少し違って見えるかもしれません。
まとめ
翻訳は、mRNAの塩基配列を読み取って、アミノ酸をつないでいく過程です。
塩基は4種類、アミノ酸は20種類。2塩基では16通りで足りず、3塩基なら64通りで足りる。だからコドンは3つの塩基でできています。ここが一番大事なところです。
コドン表そのものは覚える必要がありません。読み方さえ分かれば十分で、覚えるのは開始コドンAUGと終止コドンUAA・UAG・UGAだけです。
tRNAがコドンとアミノ酸を対応させ、リボソームが読む位置を1コドンずつ進めていく。終止コドンには対応するtRNAがないので、そこで翻訳が終わります。
これで、DNA → RNA → タンパク質という流れが一通りつながりました。DNAの複製から始まって、転写、RNAの加工、そして翻訳。セントラルドグマの全体が、ひとつながりの話として見えてきたのではないかと思います。
「なぜそうなるのか」まで理解する授業
翻訳は「コドン表を覚える単元」だと思われがちですが、実際に問われるのは、なぜ3つの塩基なのか、読み枠がずれると何が起こるか、といった仕組みの部分です。表を覚えていなくても、理屈が分かっていれば答えられます。
オーオンでは、高校生物を高校生物だけで終わらせず、大学での学びや研究、医療などにもつながる土台として、仕組みから理解する授業を行っています。
参考文献
- Nirenberg MW, Matthaei JH. The dependence of cell-free protein synthesis in E. coli upon naturally occurring or synthetic polyribonucleotides. Proc Natl Acad Sci USA. 1961;47(10):1588–1602. 原著論文
- Crick FHC, Barnett L, Brenner S, Watts-Tobin RJ. General Nature of the Genetic Code for Proteins. Nature. 1961;192:1227–1232. 原著論文
- Holley RW, Apgar J, Everett GA, et al. Structure of a Ribonucleic Acid. Science. 1965;147(3664):1462–1465. 原著論文
- The Nobel Prize. The Nobel Prize in Physiology or Medicine 1968. 公式ページ
- Alberts B, Johnson A, Lewis J, et al. Molecular Biology of the Cell. 4th edition. From RNA to Protein. Garland Science; 2002. NCBI Bookshelf
- Cooper GM. The Cell: A Molecular Approach. 2nd edition. Translation of mRNA. Sinauer Associates; 2000. NCBI Bookshelf
- National Center for Biotechnology Information. The Genetic Codes(The Standard Code, transl_table=1). NCBI ※本記事のコドン表はこのデータをもとに作成
- National Human Genome Research Institute. Codon(Talking Glossary of Genomic and Genetic Terms)
