転写とは?RNAポリメラーゼ・プロモーター・鋳型鎖を解説
DNAに書かれた情報は、そのままタンパク質になるわけではありません。一度RNAという形に写し取られてから、そのRNAをもとにタンパク質が作られます。この、DNAの情報をRNAへ写す作業が転写です。
前回までの記事では、DNAをどう複製するかという「情報を保存する側」の話をしてきました。今回からは、その情報を実際に使う側の話に入ります。
DNA複製で出てきた「新しい鎖は5′→3′方向にしか伸ばせない」というルール、これが転写でもまたそのまま効いてきます。同じ制限が形を変えて出てくるので、複製の記事を読んだ人ほど「あ、これ知ってる」となるはずです。
DNA複製の仕組み|リーディング鎖・ラギング鎖・岡崎フラグメント →
SECTION 01転写とは、DNAの情報をRNAへ写すこと
生物の情報は、基本的に
DNA → RNA → タンパク質
の順番で流れていきます。この流れ自体は、セントラルドグマの記事で説明しました。今回のテーマである転写は、このうち一番最初の「DNA → RNA」の部分です。
イメージとしては、以前も使った設計図の例がそのまま使えます。DNAが建築事務所に保管されている設計図の原本だとすれば、RNAは工事現場へ持っていく作業用のコピー。そのコピーをもとに実際に建てられる家が、タンパク質です。
このコピー作業、つまりDNAの配列を読み取ってRNAを作る仕事をしているのが、RNAポリメラーゼという酵素です。
ちなみに、転写で作られるRNAはmRNAだけではありません。ただ、今回はタンパク質の情報を運ぶmRNAに絞って話を進めます。
SECTION 02DNA全部がRNAになるわけではない
「転写=DNAのコピー」とだけ覚えていると、DNA全体が丸ごとRNAに写されるようなイメージを持ってしまうかもしれません。
でも、実際に転写されるのは、そのとき細胞が必要としている遺伝子の部分だけです。
また設計図の例で考えてみましょう。トイレを作りたいだけなのに、建物全体の設計図をすべてコピーする人はいませんよね。トイレの部分が書かれたページだけコピーすれば十分です。
細胞がやっていることも、これと同じです。DNAという分厚い設計図の束から、必要な遺伝子のところだけを選んでRNAにしています。
つまり、DNA上に遺伝子が「ある」ことと、その遺伝子が「使われている」ことは、別の話なんです。遺伝子の情報が実際にRNAやタンパク質として使われることを、遺伝子の発現といいます。転写は、その最初の一歩にあたります。
SECTION 03転写を始める目印がプロモーター
DNAはとんでもなく長い分子です。目的の遺伝子を転写しようと思っても、どこから読み始めればいいのか、パッと見ただけでは分かりません。
その「ここから読んでください」という目印になっているのが、プロモーターです。プロモーターは転写を始める場所のすぐ近くにあって、RNAポリメラーゼを含む転写の装置一式は、ここに集まってきます。
ここで面白いのが、プロモーターには向きがあるということです。
転写の装置は、このプロモーターに対して決まった向きでくっつきます。向きが決まれば、RNAポリメラーゼがどちらへ進むかも決まりますし、DNAの2本鎖のうちどちらを読み取ることになるかも、自動的に決まってしまいます。
プロモーターは「どこから始めるか」だけでなく、「どちらの鎖を読むか」まで決めています。
鋳型鎖が遺伝子によって違うのも、これで説明がつきます。DNAの2本のうち片方が生まれつき鋳型用と決まっているわけではなく、その遺伝子のプロモーターがどちら向きについているかで、結果的にどちらが鋳型鎖になるかが変わるんです。
SECTION 04なぜRNAポリメラーゼが必要なのか
DNAの配列がそこにあるからといって、RNAの材料が勝手に正しい順番で並んでくれるわけではありません。誰かが実際に読み取って、つなげていく必要があります。その役目を担っているのが、RNAポリメラーゼです。
RNAポリメラーゼは、鋳型となるDNAの塩基を1つずつ読み取りながら、それに対応するリボヌクレオチドを選び、リン酸ジエステル結合でつなげていきます。DNAのAにはRNAのU、DNAのTにはRNAのA、GとCは今まで通りお互いに対応する、という具合です。
「酵素」と聞いてピンと来なかった人は、こちらの記事もどうぞ。
転写が進んでいる間、DNAの二本鎖は、RNAポリメラーゼが今まさに読んでいる部分だけが一時的にほどけています。通り過ぎたところは、また元通り二本鎖に戻ります。ずっと開けっぱなしにしているわけではないんですね。
そして、これがDNAポリメラーゼとの大きな違いなんですが、RNAポリメラーゼはプライマーなしでいきなり合成を始められます。DNA複製のときは、プライマーという足がかりがないと始められませんでしたよね。
とはいえ、DNA上のどこからでも好き勝手に始まるわけではありません。プロモーター付近に転写の装置が集まることで、始める場所はちゃんと決まっています。
なお、実際の真核生物では、RNAポリメラーゼだけでなく転写因子と呼ばれるタンパク質たちも関わっているのですが、高校生物としては「RNAポリメラーゼを中心とした装置が、プロモーター付近からRNA合成を始める」と理解しておけば十分です。
SECTION 05DNAのどちらの鎖が鋳型になるのか
DNA複製のときは、もとの2本鎖がそれぞれ鋳型になっていました。両方コピーする必要がありましたからね。
でも転写の場合、1つの遺伝子について読み取られるのは、基本的に片方の鎖だけです。
このRNA合成の鋳型になる鎖を鋳型鎖(アンチセンス鎖)、もう一方を非鋳型鎖(センス鎖、コード鎖)と呼びます。教科書によって呼び方が違うので、混乱したら「鋳型になる方が鋳型鎖」とだけ覚えておけば大丈夫です。
実際の配列で見てみましょう。
ここで気をつけたいのが、DNAの上側・下側のどちらが鋳型鎖になるかは、染色体全体であらかじめ決まっているわけではない、ということです。
前のセクションで説明した通り、転写の装置はプロモーターに対して決まった向きでくっつきます。そしてRNAは5′→3′方向にしか伸ばせないので、結果的に、3′→5′方向に読み取れる側のDNA鎖が鋳型として選ばれることになります。
片方の鎖が生まれつき「鋳型担当」というわけではなく、プロモーターの向きとRNA合成の方向が組み合わさって、その遺伝子でどちらが鋳型鎖になるかが決まる、というわけです。
SECTION 06RNAも5′→3′方向に合成される
ここで、DNA複製の記事で散々出てきたあの話がもう一度登場します。
RNAポリメラーゼは、伸びているRNAの3′末端にあるOH基に、新しいリボヌクレオチドをくっつけていきます。DNAポリメラーゼとまったく同じやり方です。
その結果、新しいRNAは5′→3′方向にしか伸びません。一方、RNAポリメラーゼが読んでいる鋳型鎖の向きは、その逆の3′→5′です。
向きが反対になっているこの関係を、逆平行と呼ぶのでしたね。DNA複製のときとまったく同じ用語です。
DNAポリメラーゼもRNAポリメラーゼも、できあがるものは違えど、新しい鎖の3′末端にしかヌクレオチドを追加できない、という点は同じです。だからこそ、どちらも5′→3′方向にしか伸ばせません。
ちなみに、転写では1つの転写単位につき片方の鎖しか読み取らないので、DNA複製のときのようなリーディング鎖・ラギング鎖・岡崎フラグメントは出てきません。あの複雑な仕組みは、あくまで両方の鎖を同時にコピーしなければならない複製ならではの話、というわけです。
SECTION 07転写は開始・伸長・終結の順に進む
ここまでの流れを、開始・伸長・終結という3段階に整理しておきましょう。
- 開始:RNAポリメラーゼを含む転写装置がプロモーター付近に集まり、DNAの二本鎖を局所的にほどく
- 伸長:RNAポリメラーゼが鋳型鎖を3′→5′方向に読み進めながら、RNAを5′→3′方向に伸ばしていく
- 終結:転写の終わりを示す領域までたどり着くと、そこでRNA合成が止まる
終結の細かい仕組みは、原核生物と真核生物でけっこう違うのですが、高校生物としては「プロモーター付近から始まって、必要な範囲が作られたら終わる」くらいのイメージで十分です。
SECTION 08DNA複製と転写の違い
ここまでの内容を、DNA複製と並べて整理してみます。
| 比較する点 | DNA複製 | 転写 |
|---|---|---|
| 目的 | 遺伝情報を次の細胞へ受け渡す | 遺伝情報を利用する |
| 合成する範囲 | 基本的にDNA全体 | 選ばれた遺伝子・領域 |
| 中心となる酵素 | DNAポリメラーゼ | RNAポリメラーゼ |
| 鋳型 | もとのDNAの両方の鎖 | 1つの転写単位につき基本的に片方 |
| 合成方向 | 5′→3′ | 5′→3′ |
| プライマー | 必要 | 不要 |
| 起こる時期 | 細胞分裂に備えてDNAを増やすとき | 遺伝子の情報が必要なとき |
| 産物 | DNA | RNA |
こう並べてみると、DNA複製が「情報を保存するための反応」、転写が「情報を使い始めるための反応」だということが、はっきり見えてきますね。
+α)RNAポリメラーゼはどうやって見つかったのか
実は、RNAポリメラーゼという酵素が見つかったのは、1959年から1960年ごろのことです。
1959年、Samuel WeissとLeonard Gladstoneは、哺乳類の細胞を使った実験で、RNAの材料であるCTPがRNAに取り込まれていく様子を報告しました。ほぼ同じころ、Audrey StevensやJerard Hurwitzらのグループも、別の実験系からDNAを鋳型にRNAが合成される反応を見つけています。
1つの決定的な実験で見つかった、というより、違う材料・違う切り口で研究していた複数のグループが、ほぼ同時に同じ酵素にたどり着いた、というのが実際のところのようです。
「なぜそうなるのか」まで理解する授業
転写・プロモーター・鋳型鎖をそれぞれ単独で覚えようとすると、塩基配列や方向を問う問題で頭がごちゃごちゃになりがちです。
プロモーターの向きで鋳型鎖が決まり、RNAポリメラーゼがそれを読みながらRNAを5′→3′方向に伸ばす。このつながりさえ分かっていれば、用語をバラバラに暗記する必要はありません。
オーオンでは、高校生物を用語の丸暗記で終わらせず、仕組みのつながりから理解できるように授業をしています。
参考文献
- Weiss SB, Gladstone L. A Mammalian System for the Incorporation of Cytidine Triphosphate into Ribonucleic Acid. Journal of the American Chemical Society. 1959;81(15):4118–4119. 原著論文
- Kresge N, Simoni RD, Hill RL. The Discovery and Isolation of RNA Polymerase by Jerard Hurwitz.(JBC Classics)Journal of Biological Chemistry. 2006;281(15):e12–e14. 記事
- Alberts B, Johnson A, Lewis J, et al. Molecular Biology of the Cell. 4th edition. From DNA to RNA. Garland Science; 2002. NCBI Bookshelf
- Cooper GM. The Cell: A Molecular Approach. 2nd edition. RNA Synthesis and Processing. Sinauer Associates; 2000. NCBI Bookshelf
- 東邦大学理学部生物分子科学科「RNAポリメラーゼ」解説ページ
